花吹雪~夜蝶恋愛録~
結局、セナは樹里の提案を断ることもできないまま、『PRECIOUS』にきてしまった。
会いたかったけど、会いづらかった。
居心地が悪いままに卓に座っていると、
「あれ? 珍しいのが一緒なんだな」
と、やってきたナオキは、セナの隣にいる樹里を見て、怪訝に言った。
「『Rondo』のナンバーワンさんじゃん。ホスト嫌いで有名だってのに、どうしてまた」
吐き捨てるように言うナオキ。
樹里も樹里で、
「別に。関係ないでしょ」
と、目も合わせずに冷たく答える。
理由はわからないけれど、ふたりはどうやら犬猿の仲だったらしい。
だから樹里は、ホストが嫌いだと公言しているのだろうか。
セナが首をかしげていたら、
「まぁ、そうだよな。関係ないよな。俺の客はセナなわけだし」
と、言ったナオキは、わざとらしくセナの肩を抱き寄せた。
ナオキは、樹里を挑発しているように見える。
でも、「何飲む?」とナオキに耳元でささやかれ、そのハスキーな声と吐息に、セナはそれ以上、考えることができなくなった。
「あ、えっと。今日はあんまりお金ないから、ビールで」