花吹雪~夜蝶恋愛録~
樹里とナオキがいなくなって、10分ほどが経っただろうか。
しかし、セナにはそれが何十時間にも感じられて、不安ばかりが募ってくる。
と、同時に、なぜかひどく嫌な予感がした。
セナは席を立ち、トイレへと向かうと、そこには予感が的中したように、怒った顔で向かい合うふたりが。
「俺の質問に答えろって言ってるだろ」
セナの足はそこで止まってしまう。
見つからないように慌てて身を潜め、でも耳の全神経はあちらの会話へと集中した。
「『どうしてここにいるのか』って? セナが心配だったからに決まってるじゃない」
刺々しく言い放つ樹里。
樹里が誰かにこんな風な言い方をしているなんて、セナが知る限りでは初めてで、ひどく驚いたのだが。
「セナのこと、どうするつもり?」
「金が払えないなら、払えるような仕事をさせるだけだ」
「またそうやって風俗に落とすの?」
「お前には関係ない」
「関係あるわよ。セナは私の後輩よ。友達なの」
「『後輩』や『友達』はダメ? だったら、お前の知らない別の女ならいいのか?」
「……それ、は……」
言い淀んだ樹里に、ナオキは吐き捨てるように言う。
「綺麗事を言うなよ。世の中、金がすべてだろ?」
心のどこかではわかっていたはずだった。
それでもずっと、認めたくなくて、目を背け続けていた事実。
あたしはナオキにとって、金ヅルでしかないということを。
セナは最後までその場にいられなくて、ふらつきながらも逃げるように卓に戻った。