花吹雪~夜蝶恋愛録~
卓に戻ってすぐ、セナは荷物を手に店を出た。
何事なのかと焦るヘルプのことなど気にもしていられない。
これからまたあのふたりと、何事もなかったみたいな顔で向き合える自信がなかったから。
ナオキがどれだけの女を抱いていてもよかった。
あたしがその中で『一番』だったならいつかはナオキの心を動かせるだろうと浅はかにも思っていたけれど、でも結局はセナも他の女たちと一緒だったのだ。
そもそも初めから、ナオキの心の中には、あたしなんかいなかった。
頬まで濡れた涙がひどく冷たい。
雑居ビルが立ち並ぶ一角の隅で、いよいよ歩けなくなったセナはうずくまった。
嗚咽でしゃくり上げながら肩を揺らしていた時、
「……セナさん?」
と、頭上からの声が。
「セナさん、……ですよね?」
ナオキでも樹里でもない、その声の主。
じゃあ、誰なのかと、恐る恐る顔を上げると、
「って、どうしたんですか!? 何で泣いてるんですか!? どこか痛いんですか!? 救急車呼びますか!?」
と、泣き腫らした顔のセナに驚き、慌てている陸が。
陸のその表情があまりにも滑稽で、セナは思わず目を丸くする。