君との想い出が風に乗って消えても
悲しくて……。



 四月の中旬。

 桜はほとんど散って緑の葉たちが次々と顔を出している。



 僕は中学三年生。

 新しいクラスにも慣れてきた。


 今は放課後。

 ちょうど校門を出たところ。


「……そろそろ咲いている頃かな」


 毎年この時期に出会えている。
 秘密の場所で。


 僕は年に一度、数日間、咲いている一輪の花を見に行くことがとても楽しみ。

 一輪の花が咲いている間は、ほぼ毎日、秘密の場所に行っている。

 他の草花たちも、きれいで好きだけど。
 その一輪の花はまた別の魅力があって。
 僕はその一輪の花を見ると元気をもらえる。

 また明日も頑張るぞという気持ちになる。


 今年も、その一輪の花に会える。
 そのことを楽しみにしながら秘密の場所へ向かっている。


 穏やかでやさしい春の風。

 その風が春の香りを運んでくれる。

 僕はその香りに包まれているような感覚になった。

 そんな感覚になっていると。
 とても穏やかな気持ちになる。



「……着いた……」


 そんな気持ちになっていると。
 あっという間に秘密の場所に着いた。


 僕のとっておきの場所。


 今日もその美しさは健在。

 花も木も草も。
 全てが美しく。
 この場所だけ別世界のように感じる。


 そして。


「会えた……」


 今年も美しく咲いていた。


 一輪の花……。


 僕は、その一輪の花に歩み寄った。


「こんにちは。今年もきれいに咲いていてくれて、ありがとう」


 年に一度、数日間咲く一輪の花。

 その一輪の花に今年も出会えたことがとても嬉しかった。


 ……?

 嬉しいのに……。


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