君との想い出が風に乗って消えても
「パパ、今日も歌おうよ」
「そうだね」
この場所に来ると僕たち家族は歌を歌う。
それは、あの頃から変わらない。
そして僕と妻と娘と息子は歌を歌い始めた。
それに合わせてくれるように草花たちも揺れている。
そして一輪の花も……。
僕たち家族は、一輪の花も含めてここに存在するすべての草花たちに響き渡るように心を込めて歌った。
* * *
「さっ、今日は帰ろうか」
ある程度の時間を過ごした後、僕はそう言った。
「えー、まだいたい」
まだこの場所にいたいと言う、娘と息子。
そんな娘と息子が愛おしい。
「また来るときの楽しみにとっておこう」
僕がそう言うと。
「……うん……」
娘と息子は頷いた。
「じゃあ、またね」
僕がそう言うと。
「じゃあ、またね」
娘も。
「じゃあ、またね」
娘の後に息子もそう言った。
妻も「じゃあ、またね」と言って、僕たち家族はこの場所を出ようと歩き出した、とき。
『優くん……』
……え……?
今……。
確かに聞こえた……。
『優くん』って……。
……あのとき……。
二十年前と同じだ……。
僕は慌てて振り向いた。
だけど、やっぱりそこには一輪の花やたくさんの草花たちが存在するだけ。
……今のも……幻聴……?
「どうしたの?」
……‼
僕は妻の呼びかけで我に返った。
「……う……ううん、何でもない」
心のどこかで引っかかりながらも妻にそう言った。
「じゃあ、またね」
僕はもう一度、一輪の花やたくさんの草花たちにそう言った。
そして再び妻や娘や息子と一緒に歩き出した。