ムボウビハート


 「…ん?」



大人のフリをして、平気なフリをして、聞き分けがいいコのフリをして、あたしは続きを促した。



「今日みたいな、こんな雨の日だったんだよ。俺は絵画展の賞をとったばっかで、絵画展の会場にいて。」




あらたの指が、あたしの頭から離れて、頬を滑る。そのままくちびるに移動した親指は、確かめるみたいにあたしに触れ続けている。



「雨が降ってたから、客足もまばらですることがなくて。脇に置いてあるベンチに座って、ぼーっとしてて。そしたら、会ったんだよ。あいつに。」



くちびるに尚も触れている、あらたの親指を、感じながら聞き返した。



「あいつ、って?」




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