愛を教えて欲しくない

そんな日々が3ヶ月ほど続いたとき、いつも家に知らない男たちを連れて帰ってくるシングルマザーの母がひとりで帰ってきた日があった。

母は随分機嫌が良さそうで、朝目が覚めた私を手招きすると、フレンチトーストと卵焼きを作ってくれた。


どっちも砂糖たっぷりの甘々で、こんなに甘くて美味しくて、これは夢なんじゃないかとすら感じて、もしそうだったら覚めたくないな、なんて思って、母の方をみると「髪結んであげようか」と愛でるような表情で笑った母は私の後ろにきて、腰まで伸びた長い髪を結ってくれた。


それから母が髪を結ってくれたことは1度もなかったけど、ただその1回がなによりも嬉しくて、鮮明に覚えていた。

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