揺るぎのない愛と届かない気持ち

母の話し 〜紗英

私より先に息子が退院した。
あの子は病気でもなんでもないので、
この大学病院にはいられない。

実家に帰って、
母が面倒を見ると言ってくれたが、
大変なので看護師の資格を持つ、
伸哉さんのお嫁さん’ふみさん’に
別邸から、
私が退院するまで来てもらうことにした。
ふみさんも久々の赤ん坊で、
しかも私の子だとういうので
張り切ってあると、母が教えてくれた。

私は息子、、、、
早く出生届を出さなくてはと、
子供の名前をつけた。

父は自分がつけてやると張り切っていたが、
まだ、離婚をしていないので、
この子は私と東吾さんの長男として、
戸籍に記載されるわけだから、
生まれる前から二人で決めていた、

悠(はるか)

と名付けて届け出た。

悠におっぱいもあげていない、
そのことにも深く落ち込んでいたが
母はあっけらかんと

「仕方がないでしょ。
大丈夫、
ミルクでもちゃんと丈夫に育つんだから。

ミルクをあげるときに、
ちゃんと悠のことを見て、抱きしめて、
愛情をいっぱい
注いであげたら、いい子に育つんだから。

母乳をあげられなかったって、
落ち込む必要はないわ。

私も紗英の時は、完全ミルクよ。

片手であなたを抱きながら、
お祖父様の介護をしましたよ。

そんな大変な時に、お父様に浮気されて、
お父様を殺そうかと、思ったけど。」

「ええっ!お父様が浮気。。。」

母はこともな気に言ったが、
絶対に本気で父を殺そうと思ったに
違いなかった。

激昂したように、咄嗟に殺そうと思ったって言っているが、
結構冷静に
父の命を狙っていたかもしれないと、
私はぞわりとした。

「紗英ちゃん、
私なら完全犯罪の如く、
お父様をやっちゃったかもしれないって、
思ったでしょ。」

「ええ、、、まぁ、、、」

母は悪戯っぽく微笑んだ。

「嫌な話だけど、聞きたい?」

目を煌めかせて言う。

いくつになっても、
年齢不詳のような若さと美しさがある人だ。

私は母の顔を真剣に見つめながら、頷いた。

「お父様は、
いずれは日本の法曹界を代表する人に
なるかもしれないって、
言われていた若き敏腕弁護士だったの。

その将来は、当たっているわね。

お母様はお見合いで結婚したけど、
本当は結婚しないで
気ままに生きていきたかったの。
でも、
そういうことを許すような家では
なかったからね。

じゃぁ、どうせ結婚するのだったら、
お父様は見てくれもいいし、
頭もいいし将来も有望と、
これだったら別にいう事もないかと思って、
諦めて結婚したの。」

母らしい結婚するための理由で笑えた。

「それで結婚3年後に、あなたを妊娠。
もう周りから、
子供は子供はって言われていたから、
あなたを妊娠した時は
これでプレッシャーから解放された、
と思ったのよ。

お父様は忙しくって
お母様のそういう心の機微
に頓着されなかったから
本当に一人で
毎日
戦っていたようなものよ。」





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