揺るぎのない愛と届かない気持ち
「そのうちにね、
お父様が怪しくなってきたのよ。

帰宅時間が遅いのは当たり前だったけど、
休日に出かけることも多くなって、
出張も増えた。

もちろん、
家では何ひとつ手伝ってもくれなかった。
あなたを抱っこすることもなかった。

最低な男だったのよ。」

その父は私が物心つく頃には、
母の後をうるさいくらいに付き纏い、
母が洗い物をすれば、それをしまったり、
コーヒーを豆から引いて
母に淹れてあげたりと、
尽くされている母の方が冷めた感じだったので

お父様、大変って思っていた。

「まぁ、お母様が
何も知らないと思っていたのでしょう。

シャツに安っぽい香水の移り香だったり、
穿いて行った下着とは違う
下着で帰ってきたり、、、
本当に馬鹿でしょ。

お風呂の時は、
私が下着から何もかも用意して
置いているっていうのに。
お洗濯とかは、
お手伝いさんがするからって
思っていたらしいわ。
お祖母様がされない人だったからね。

私は自分たちの下着とかを、
お手伝いさんといえども、
洗ってもらうなんて
冗談じゃないって思っていたから、
自分で洗濯していたのよ。

そんなことも知らないような旦那様だった。」

母はいつものように淡々と話していたが、
当時は辛くって胸を掻きむしられるような
日々だっただろう、、、

なのにあっさりと母は言った。

「よかったのよ。
別にお父様のことを愛してもいなかったから。
というより、
人を愛するって気持ちがわからなかったから。

ただ、私の大事な時間を奪って、
ご自分は平気でよそに女の人がいるお父様を、
何か、こう、ぺしゃんこに潰してから、
高木の家をあなたと二人
出ていこうと思っていたの。

まず
お金はあったから
仕事上の付き合いがあった探偵に頼んで、
お父様の尾行調査と証拠となる写真を、
撮ってくれるように頼んだの。
久しぶりの連絡が夫の不倫調査って知って、
驚いていたけど、

人との縁は大事にしないとね。」

母は結婚前に双方の両親と夫となる父から、
仕事を辞めて高木の嫁としての勉強に
徹しなさいと言われ、
当時女性として珍しかったが、
キャリアとして入局していた
警察庁を退職していた。

その時だけは泣いたと言っていた。

その探偵さんは、当時の知り合いなのだろう。

「そこで、あっけないほど証拠が集まったの。
少しは、緊張しなさいって、
言いたいぐらいに脇が甘かったわね。

相手の女性は、
お父様がよく行っていた小料理屋の女将さん。
お父様より年上の人で、背が低くってころんとして、
愛嬌がある顔はしていたわね。

出張って言っていた時は、彼女と旅行している時もあれば、
彼女のアパートに、入り浸りの時もあったみたい。」




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