揺るぎのない愛と届かない気持ち
「お父様が
今日彼女のアパートに泊まりだとわかった
翌朝、
突入したのよ。

ほら、よく警察のドラマであるじゃない、

’朝早くからすみません、
水漏れがしているということで
工事依頼があってきました。

この下の階なので、
オタクが水漏れしているんじゃないでしょうか。
ちょっと調べさせてください。’
って。

ここは、私が責任を持つからって言って、
ものすごく渋った探偵に言わせて、

少しドアが開いて
チェーンがかかってないところを見て
強行突破!」

ドラマのようだが、
強行突破された方は恐怖しかなかったに違いない。

「玄関を上がったら、
すぐにお父様がいる部屋が見えたの。
私の姿を見たお父様は、
もう馬鹿みたいに口を開けて
惚けたようになっていたわ。

般若のような形相で
私が入ってきたんですもの、
魂消たのよね、まさしく。

お相手さんはなんなのあなたはって
金切声を出していた。
浴衣のような寝間巻き姿が、しどけなくって、
こんな人がお父様はお好きだったのね
って思ったら、

そこで初めて、
夫に不倫された妻の切なさを感じたわ。」

母のことだ、
その当時の光景も父の不倫相手の顔も、
もちろん父のことも
何ひとつ
忘れずに覚えているのだろう。

「私は、この人の戸籍上の妻です。
子供もいます。
今日は、この人に三行半を突きつけに来ました。

別れたら、高木家から嫁がいなくなります。

今から、高木の両親にこの人が嫁として、
この家に入りますのでって、紹介をしますから、
急いで支度をなさってくださいって、言ったの。

もちろん、二人は驚きで動けやしない。
そこで、大声で喝をいれて、
着替えさせて有無も言わさず車で
高木の家まで、連れてきたのよ。

お相手さんには急かしたけど、
お化粧もさせてあげたわよ。
身だしなみは必要よね。
初対面だし。

お父様は、私にすまないって土下座をして、
高木にお相手さんと一緒に行くのは
勘弁してくれって、言ってたわ。

そこで、証拠写真や調査結果を見せて、
これが渡るのと今一緒に行くのと、
どちらが楽かしらね、、、
なんて究極の選択を迫ったりして。

要するに判断能力がしっかりと働かない間に、
高木の家まで連れてきちゃったのよ。」

母のこの想像の斜め上をいく、
行動力には驚かされる。
多分
全てが母の頭の中で、組み立てられたシナリオだろう。

「まずは高木の家へ連行して、
おばあさまにことの顛末を言って、
それでは失礼しますって、
一旦部屋に戻った。

お手伝いさんに見てもらっていた
あなたを抱っこして、
改めてお祖父様の
ところへ行ったの。

お祖母様が廊下のところで待っていらしてね。
いきなりことの次第を
お祖父様に申し上げるのは、
お身体のこともあって心配だから
あなたが暫く実家へ帰るからその間の代わりの、
お手伝いさんと紹介しました。
って。

お祖母様なりの咄嗟の判断でしょうね。」

父の不倫相手は面食らったに違いない。

いきなり突入されるは、
連行されるは、
挙句に
威圧感のある老人の介護を押し付けられるなどと。

お祖父様は亡くなるまで威厳ある方だったから。

脛に傷持つ身としては
さぞや
怖かったろう。


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