揺るぎのない愛と届かない気持ち
母の実家での生活は、
嫁ぎ先で辛い目にあった娘が
孫を連れて帰ってきたということで
優しくされ、
予想に反して居心地が良かったらしい。

高木の祖父が言っていた通り、
高木家の筆頭顧問弁護士の赤城先生が
代理でいらして祖父の代わりに
平沢の祖父に謝罪をされたということだった。

赤城先生も、大変だったろう。
高木の祖父は大恩人、
その息子は自分のところで、
預かっている将来有望な弁護士、、、
のはずだったのに。

父は家を出されて、
今は引退されて高木の別邸を取り仕切っている、
当時高木家の事務方を司っていた
伸哉さんのところに転がり込んで、
日々針の筵のような生活を強いられていた
とのことだ。

事務所に行けば、
赤城先生の厳しい視線が待っていて、
どこにも安住の場所がなかった、父。

母は少し痛快そうに言っている。

お相手さんは、
翌日から祖母に帰してくれと泣きながら
懇願していたということだが、
そうそう、
はいそうですかと祖父母が頷くはずもなく、
それこそ箸のあげおろしから、歩き方に至るまで
何から何まで、祖母の叱責が入ったらしい。

本当は彼女は逃げ出してもよかったのだ。
しかし
母が出て行って、
もしかしたら、
とありえない期待をしてしまった。

あろうことか祖父母に、
父とは真剣に思い合っていると
涙ながらに語ったという。
父は、遊びだったと、
なし崩しに付き合っていたと、抗弁した。

「だって、
家に帰っても奥さんが話もしてくれないし、
聞いてくれない。
子供のことのことと親のことばかりで、
これでは、
本当に自分と結婚した意味がないって、
抱こうとしたらミルクと消毒の匂いしかしない女になんか、
その気にならないって、、、」

一番そのような話を忌み嫌う祖父母の前で
言ってのけたのだ。

祖父は起き上がって、
父を指差して、今すぐこの女と出て行くか、
一人で出て行くか選べと迫り、
父は追い縋るお相手さんを振り解いて、
脱兎のごとく部屋から駆け出した、
とのことだった。

残されたお相手さんは、
そういう下世話なことは
高木家の嫁はおろか
雇い人としてもこの家に置くことはできないが、
息子がしでかした不始末、
ここはあなたを常識人として
世の中に返せるように、
鍛え直してあげましょう。
と祖母が言って、
却って厳しい監視付きの身の上となったのだ。

もちろん
父からの連絡は何もない。

お相手さんが考える以上に高木の家は、格式が高かったのだ。





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