揺るぎのない愛と届かない気持ち
そうなんだ。
紗英の今回の妊娠は予期せぬことだった。

子作りはもう少し待とうと、話し合ったのに、
避妊もちゃんとしていたのに
紗英が妊娠したのだ。
もちろん、俺との子に間違いない。

紗英が妊娠するのを躊躇っていたのに。
今、
予期せぬ妊娠で紗英自身が計画していたキャリアを、
諦めなくては、いけなくなる。
どうして、
もっと気をつけなかったのだろうかと、
思い悩んでいたのだ。

子供ができたのは素直に、
とてもうれしかった。
でも
素直に喜んでは、
キャリアを積むことを諦める紗英に
申し訳ない気がしていたのだ。

どういうふうに言ってあげればいいのか?
どういうふうにしてあげればいいのか?

実際に
つわりなどで苦しんでいる紗英を見ながら、
自分の気持ちの表現の仕方も
わからなくなっていた。

妊娠したことで、、俺のことを恨んでいないか?
もしかしたら、
わざと妊娠させたのではと疑っていないか?

このことばかりは
いくら気が利かない俺でも
長内に話すわけにもいかなかった。

しかし
気づかれていたのか。

「紗英さんとの間が
ギクシャクしてるのかなって、、、
そう思ったら、
私も彼との間がギクシャクし出して。。。

東吾を呼び出して愚痴っていた。
いつも、紗英さんとの話を聞いてあげていたでしょ
なんて言いながら。

紗英さんや彼には悪いけど、
東吾と一緒にいる時が一番しっくりときたのよ。

このまま
ギクシャクとしたまま紗英さんと
別れればいいのに、なんて思ったりして。」

「紗英と別れるなんて思ったことは、
1秒たりともなかったよ。

それより
どうして長内は彼との結婚を渋るのだろうと、
不思議だった。

あのウェディング模擬パーティーの日、
執拗に俺に縋る長内も少しおかしかった。
さすがにあれには紗英も怒っていた。

俺は、
長内は友達だから、困っていたら助けたい、
なんて、偽善的な大義名分を掲げて、、、」

「あれは私と東吾の模擬ウェディングよ。。。
自分の思い出として、残したかったの。
でも、居た堪れなかったみたいで、
すぐに帰っちゃったでしょ。」

「当たり前だ。
行ってしまった俺も悪いが、
あれは俺が行ってはいけないところだ。
婚約者の
彼にも本当に申し訳なかった。」

「いいのよ、、、、
彼には黙っていたから。一緒に行く気はなかったの。
東吾と一緒に行きたいという、私の邪な思い。

馬鹿な女でしょ。

けど、東吾に帰られて、、、
もう私たちは恋人はおろか友人にも戻れないって
はっきりとわかったの。」

長内は何を考えていたのだろうか?
俺と紗英が万が一
ダメになっっとしても
だから長内と、、、
なんてあり得ない。



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