揺るぎのない愛と届かない気持ち
「紗英ちゃん、香衣ちゃんが見えたわよ。
リビングにする?それともここにする?」

母が、部屋でぼうっと考え事をしている私に
尋ねた。

今日は香衣が、
退院祝いと出産祝いを届けにくると
言っていた日だった。

「悠もさっきミルクを飲んでおとなしいから、
ここに来てもらって、
ゆっくりと悠のお顔を見てもらいましょ。」

「そうね。もしぐずるようだったら、
私が悠を見ているから、久しぶりに
香衣ちゃんとゆっくり話したらいいわ。」

本当だ。
家族以外の人と、ゆっくりと話をするなんて、
久しぶりだ。

香衣は両手に大きな紙袋を一つずつ提げて、
部屋へ入って来た。
幼稚園の頃から共に過ごして来た仲なので、
今では身内の感覚でしかない。
香衣がうれしいことも悲しいことも、
私と分かち合ってくれたように、
私も香衣といろいろな時々を、分かち合ってきた。

しかし、今回の東吾との出来事だけは、
上手く香衣に話すことはできなかった。
あまりにも悲しすぎて。。。

香衣はわかっていて、
東吾さんの話題にあえて触れないようだった。
きっと
海斗さん経由か何かで知っているに
違いなかったが。

「紗英、、、可愛いねぇ。もう、天使だね。」

「可愛いねぇ、
時々悪い尻尾が見える時もあるけど。」

「ねぇ、
こんな時に言っていいのかどうか、
わからないけど。

これからどうするの?」

「香衣は、、、どこまで知っているの?」

「おじさまから、あらかたは聞いているの。
東吾くんがあの人と浮気して、
その時に紗英が居合わせてしまったって、、、」

「お父様か、、、
私たちを別れさせるのに躍起になっているから。
お母様からも、まずは私たちがきちんと
話をしてからでしょうって、
ついこの間も叱られていた。」

「おじさまは紗英のこと、
ものすごく好きですものね。」

「それ以上にお母様のことを
ものすごく愛しているけどね。」

「おばさまは無敵よ。」

香衣は数日前に偶然東吾と会った話をしてくれた。

その時に長内さんに会いに行くと言うので、
怒り心頭に達したけど、
母が
長内さんと話をしてきなさいと、
東吾に言ったらしく東吾もそれに頷き
会いに行ったと、
その後海斗へのメールで知ったということだった。

「東吾くんくらい鈍感なのは、もう罪ね。
長内さんも感じ悪いけど、元はと言えば
東吾くんのいらぬ優しさからかもしれない。」

そう
東吾は優しい、、、

「東吾さんは優しい、長内さんにも私にも、、、
それって同じ優しさ?

彼女に対するのと私に対するのと
違いがあるのかしら?

どうして私と結婚しようと思ったのかしら?

私も東吾と結婚したいと思ったのは、
東吾のどういうところを見て感じて、
結婚したいと思ったんだだろう、、、

わからなくなっちゃって、、、」

「紗英、、、
紗英は私に言っていたの、
東吾さんとは同じ未来を見て
歩いていけそうって。
お互いに支え合って、同じ歩調で歩いて、
家族になれそうって。」

「愛はあるのかしらね、私たちの間に。」

「私と海斗、愛し合っているって言えるけど、
私の愛の熱量と海斗の熱量、
比較して測れないのよね。

でも、
私と海斗はいつも真剣に向き合っていると思う。
だからね、、、私やきもち焼くときは、凄まじいよ。
真剣だから。

海斗はその時だけは、
殺されるって思うらしい。。。」

「香衣は自分の気持ちを素直に、海斗さんにぶつけられるんだ。」

「そうだね、、、
誰よりも海斗に対しては素のまま。」

「私は、、、できなかったなぁ、、、
長内さんへの嫉妬もなぜか言い澱んじゃって

東吾にどう言えばわかってもらえるか、、、
そしたら、理屈っぽくなっちゃうばかりで」

「紗英は、
私が知っている紗英は物静かで、
人の争い事には決して入らないし
声を荒げることもない。

でも、
人一倍鋭い嗅覚で、人のことを見ている。

それをそっと言うんだよね。
さらっと、人が傷つかないように、、、」

「それはさ、争いを嫌うええカッコしいなだけ。」

「そう、よくわかっているじゃない!
私と紗英が仲がいいのは、
私も紗英も素で言い合えるところ。

喧嘩して、口をきかなくなって2、3ヶ月経って、
主に私が悪いから反省してお詫びを入れるまで、
紗英も頑として自分の姿勢を崩さない。

本当に頑固だけど、
こうやって私には素直にぶつかってくれるし、
ぶつからせてくれるって、私はうれしいのよね。

私は海斗と知り合って、
海斗にもそうやってぶつかることができる。

紗英も、東吾くんにそうやってぶつかればいいのよ。
怖がらずに、、、」


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