揺るぎのない愛と届かない気持ち

「怖がらずにか、、、

人と争うのが本当に嫌で、、、」

「自分がかかっているのよ。
前の時にちゃんと学習しなかった？」

今日の香衣はとことん、
私を追い詰める気らしい。

「あんなに好きだったのに。
初めて自分から好きになったのに、
あっさりと、身を引いちゃって。」

私が社会人２年目の時だった。
３年先輩の当時同じ会社の男性と、
恋愛をしていた。
私の一目惚れだったが、
先輩からつきあてくれと言われた時は
もう天にも昇るような気持ちで、うれしかった。

私の教育係だったのだが、
彼の物腰や性格などが
とても自分にとって好ましく、
これ以上ないというくらい、
仕事の仕方がとてもスマートな人だった。

好きになったが、
片想いでいいと告白する前から諦めていたが、
彼から告白されて、
両想いとわかり、とても幸せだった。

母は知っていたが、
家のものには散々嘘をついて、
彼のマンションに泊まったり
二人で旅行などもしていた。
母にはこのままいけば、
結婚するかもしれないとこっそり打ち明けていた。

しかし
そこに新入社員の女の子が現れた。
とても可愛い子で、仕事にも熱心だった。
当時私が彼女の教育係として、ついていた。
人を指導する難しさもあり、
よく彼を交えて３人でミーティングすることもあった。

彼がわかりやすく彼女に心惹かれていたのなら、
私も考えようがあったが、
そうではなく彼女が彼に惹かれた。

その彼女は私に対して心理作戦に出た。

彼の優しさを利用して、
私抜きで会うようになり、自分のテリトリーに入れて
彼女たちグループで遊びに行くようになったのだ。
もちろん私抜きで。

私は、、、
嫉妬で頭の中が真っ白になりそうだったが、
我慢をした。
見苦しく嫉妬する姿を彼にも彼女にも
見せられないと思ったのだ。
あくまで
理解がある風の恋人に徹した。

それは彼を信じていたから。

でも、
段々と私たちの間に隙間風が吹き

「紗英は少しも心配じゃない？
僕が他の女の子と一緒なこと。

いつも思っていたんだけど、
紗英は冷静すぎるんだよ。
普通は他の女の子と、どこか遊びに行ったりしたら、
ヤキモチを焼くんじゃないか。

紗英は僕が思っているほど
僕のことを愛してはいないんじゃないか。」

と
ある日彼から信じられない言葉を言われた。

私だって嫉妬している。
嫉妬
嫉妬
嫉妬している。

「あの子は、
ありのままの自分の感情を僕に向けてくれる。
紗英さんに悪いけど、
自分の気持ちを偽れないって、、、」

滾っていた私の嫉妬の血が一気に冷めた。
そうなんだ。
結局そう言って、
彼女に惹かれている自分を正当化したかっただけなのね。

「何て言えばよかった？
彼女と一緒に行かないでって、
言えばよかった？
泣いて縋りついたらよかった？

どうしたらよかったんだろう。

あなたは何も言わずに彼女を選んだ。
私は何も言わずにあなたを失った、、、

私が最後に言えるとしたら、、、
私はあなたを信じていた。
本当に好きだったから。
私が好きなあなただから、、、」

そう言って
私は彼と別れた。

その後社内は、
私の元カレと彼女の話でもちきりになり、
私は哀れな目で見られるようになった。
彼女も本意ではなかったけど、
こうなってしまってと言って
涙を流していたそうだ。

安い涙だな、、、
と同期が吐き捨てるように言っていた。

私はしばらくして、その会社を離れ、
外資系のコンサル会社に転職した。
恋愛も遊びもできないほど、忙しい毎日を過ごし
それそれでとても充実した日々だった。

そんな痛い恋愛も
周りの友人たちは
もっと喚きなさいと言ったが、
香衣に言わせると、
喚かないくらいの恋だったよと、あっさりと片付けてくれた。