揺るぎのない愛と届かない気持ち
「紗英、、、、
紗英と自分の子を、辛い目に合わせた。
言葉では言い尽くせないくらいに
後悔している。
本当に、自分も生きた心地がしなかった。

紗英から、救急車に同乗するのも、
病院で病室に入るのも
悠と会うのも、全て拒否をされて、
今更ながらに、自分が犯した間違いに、
後悔した。

なんであの時、
なんであの時

その時々、いや、長内との出会いから
今まで時々をすべて呪った。

でも
そうじゃないんだ。
俺なんだ。
また長内を庇うって
言われるかもしれないけど、
一番悪いのは俺自身なんだ。

紗英を愛している。
紗英が一番だ。

なのに、
紗英に自分の弱いところを見せられなくって
向き合うことをしなかった。。。」

俺は
偽りのない自分の気持ちを訴えた。

「逃げるわけじゃなく、起きてしまったことは、
もう取り消せない。
紗英と悠に大きな傷を与えてしまったけど、
俺はそのことを後悔しながらも
これから二人に謝罪しながら、
一緒に生きていきたい。
紗英の夫でありたい。
悠の父親でありたい。

お願いだ。
許してほしい。

許してくれとは言えない事を
したとわかっている。

でも
それでも
紗英と一緒に生きていたい。」

紗英は窓の外に目をやって、
しばらく黙っていた。

きっと簡単には許してはくれないだろうが、
それでも、
紗英にこれからの人生を俺と一緒に
歩いて欲しかった。
遠くに行って欲しくなかった。

「どうして結婚したのかしらね。。。

ずっとそればかり考えている。」

あんなにみっともない姿を晒した夫、、、
愛想を尽かされても仕方がないことをした俺。

「東吾さんの何を見て、結婚を決めたのか。
わからなくなったの。

何も考えないで、
結婚したわけではないのにね。

東吾さんはどうして、
私と一緒に生きていきたいと思ったの?」

身体ごと俺の方に向き直って、紗英が尋ねた。

「紗英の未来が、俺の未来と重なった。
この人の未来を支えることが、
自分の未来を作ることになるって
会った瞬間に思った。」

「未来、、、
そうね。
東吾さんとだったら、並んで歩けるって思った。
同じところを見ながら。

そう思ったんだわ。」

「紗英抜きで、俺の人生は考えられない。」

「忘れてしまっていた。自分の気持ち。
自分の気持ちも分からないのに、

人の気持ちなんて
わかるはずないわよね。」

さっきから
立ったり座ったりして、
自分の中のバランスを図るように、
動いていた紗英が、俺の前に座り直した。

「私はあなたと離婚したい。。。」

「。。。。。」

紗英、、、
俺の気持ちは紗英には届かないのか。

「私はあなたたち二人を
許すことなんかできないの。
私の気持ちを、存在を踏み躙る行為を、
到底許すことなんか
できない。

でも
危うくあなたたちに
殺されかけた私たちだけど、
どうするのが自分らしく、
そして
悠のために幸せなのかを、考えたい。

いますぐに
あなたとの再構築なんて考えられないの。

もう一度、考えたいの。」

殺されかけた、、、

そう、一歩間違えたら俺は紗英か悠か、
あるいは両方とも
死なせていたのかもしれない。
改めて、
そう思うと全身の血の気が引く
思いがした。

「紗英、、、
許して欲しいとしか言えない。

考え直して欲しい。
いくら時間がかかってもいい。
紗英と悠と
また一緒に暮らせる日が必ず来ると思って
待っている。

今の俺には
それしかできないんだろう?」

紗英の決意は揺るがなそうだ。

考え直してどうなるか分からないが、
俺との未来を今一度考え直して欲しい。

「待っているから、
一緒に暮らせると思って待っているから。」

「東吾さんも、考えて欲しい。
冷静になって。

今は混乱してそう言っているだけかもしれない。
私が考えて待たせている間に、
いい人が現れるかもしれない。

その時は正直に言って欲しい。
もう嘘はいや。」



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