揺るぎのない愛と届かない気持ち
「東吾くん、会社を辞めて、
次の当てはあるのかしら?」

母が悠を和室の縁側で半身浴をさせながら、
私に尋ねた。

東吾さんは、本当に細かいことまで
私に連絡をくれた。

マンションを移転する話。
新しい部屋の一つ一つの画像を送ってくれた。

実家の私の部屋と同じ色のカーテンが、
新しくつけてあった。
寝室のベッドも新しくなっていた。
悠の部屋もちゃんと準備されている。

それから
会社を辞める話も相談があった。

悠と面会する日に、
私に会社を辞めようと思うがどうだと、
意見を求められた。
彼の話を聞いて、長内さん絡みではなく、
これからの自分に賭けてみたいという
東吾さんの思いに私は共感した。

それからいろいろとあったらしいが、
すでに
退職届を出したらしい。

「大学の先輩の勤め先、
仕事で知り合った方からのお誘い、、、
結構あるみたい。
じっくりと考えるらしいわ。」

「彼、
紗英ちゃんたちの生活費と言って少なくない額を、
毎月渡してくれるのよね。

マンションも引っ越して、
この間は車も新しくなっていた。
お金は大丈夫なの?

あちらのご両親に無心するような人ではないと
思うけど。」

「そう言えば、東吾さんのご両親に悠のことを
知らせないわけにはいかないって
腹を括って会いに行ったら、
お父様から殴られるわ、お母様から泣かれるわで、、、
結局は、今回の件をすべてご存知で、驚いたって。」

東吾さんのご両親には悠が生まれたことを、
私の了承を得て、母が連絡してくれていた。

ただ
訳ありなので、東吾さんから改めて連絡が来るまで、
このことは内密にお願いします、と
母は言ったらしい。

東吾さんのご両親には悠の画像や動画を
たくさん送らせてもらっていたし、
一度、お二人して悠に会いに来てくださっていた。
もちろん
東吾さんには内緒で。

気の毒なくらいに恐縮なさって、
お父様はこのまま東吾を殴りに行きたいと、
おっしゃっていた。

そこへ
そういう経緯を何も知らない
東吾さんが帰省して、
ことの詳細を言ったものだから、
我慢を重ねてあった
お父様からの鉄拳が飛んだらしい。

東吾さんはうちの父からと自分の父親からと
鉄拳をお見舞いされ、
メンタルも同時に打ちのめされ、
この痛みは一生忘れられない。

気弱に呟いていた。

「東吾さんは投機のセンスも少し持ち合わせているみたいで、
高校大学って小さな投機で蓄財して、そこそこに資産はあるみたい。

その資産を全部私に渡そうとしたから、
断ったの。」

「そう、、、

彼を丁稚奉公に雇おうかな、、、」

「お母様、またよからぬ企み?」

「グッドアイデアよ。」

母が面白そうな顔をしてこういう時は、
あまり関心しないひらめきがあった時だ。
東吾さんも母からいいように
弄ばれているような気がする。



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