課長と私のほのぼの婚

二人の誤解

陽一は黙って耳を傾け、冬美の言いたいことをすべて理解すると笑いだした。


「そうなんですか。だからさっき、高級食材の店で買い物をしようと……」


彼の楽しそうな様子に冬美はあ然とし、だが真剣な告白をはぐらかされた気がして抗議する。


「課長、真面目に答えてください」

「ああ、すみません。笑っちゃいけませんね」


まだ可笑しそうだが、陽一は冬美にまっすぐ体を向けた。


「僕は確かに美味しい食べ物が好きです。でもそれは、高級食材とは限らないし、特にグルメと言うわけでもない」

「えっ、でも……デートのときは」

「デートで『いいレストラン』を選んだのは、冬美さんが好まれると思ってのことです」

「私?」


照れたようにうなずく陽一。

もしかして、すべて誤解だったのだろうか。うろたえる冬美に、彼は理由を話した。


「下田のホテルで、冬美さんと食事しましたよね」

「はい。金目鯛の煮つけをご馳走になりました」


忘れもしない、あの日。二人の大切な思い出だ。


「冬美さんはあのとき、料理を美味しそうに食べながら言いました」


――いいなあ。私、こういうところでご飯を食べることって、めったにないんです。最高ですよね。


そんなことを私が?

冬美は懸命に思い出そうとするが、記憶になかった。
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