課長と私のほのぼの婚
金目鯛の煮つけ

推しロス

時はさかのぼり、あれは5か月前の初夏――

希望を失った冬美の胸は、さみしくて悲しくて、どうしようもなかった。

そして気がつけば、愛しい彼ゆかりの地へと旅するため、電車に揺られていたのだ。


◇ ◇ ◇


「踊り子号は座席が埋まってたから乗るのをあきらめたけど、結果的によかったかも」


野口(のぐち)冬美はひとりつぶやき、ぐるりと車内を見回す。

この電車は下田行き各駅停車の『黒船電車』。どの電車に乗ろうか迷ったが、発車時刻が一番早かったので何も考えずに飛び乗った。

熱海駅を出発したときはほぼ満席だったが、途中下車する人が意外に多く次第に空いてきたので、海側の席に移ることができた。

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