私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
突然すぎると、人は思考停止する
『あほくさ…。』
大阪支社に勤務していた頃に覚えた言葉で、
菜々美は現在の状況に対し、自分自身に突っ込みを入れた。
目の前に座っている、ひたすら法律用語を駆使して現状を説明する弁護士。
50代半ばくらいだろうか…。とても神経質そうだ。
話している途中で、もう何回も銀縁メガネをずり上げている。
側に立っている若い弁護士も、『けったくそ悪い』
ひと言も口を挟まず、眉間に縦皺を寄せて突っ立っているだけなのだ。
ここは、丸の内にある『上条法律事務所』
まだ残暑が厳しい、日曜日の午後。
休日にも関わらず、特別に事務所を開けてくれたらしい。
応接室のソファーに座らされ、ひたすら彼らの話を聞かされるので
菜々美は手持ち無沙汰を紛らわす為に、じっとテーブルの上の名刺を見つめた。
銀縁メガネが、上条○○。若い方が、高村○○。
もう何度、その名を暗唱したか。
いつになったらこのくだらない話は終わるんだ?
私の脳は、思考停止状態だった。
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