私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
『お前を信じている』
その言葉が、菜々美の心に深く染み込んできた。
遺産の話が彼女に纏わりつくようになってから、誰からも言われなかった言葉だ。
「とにかく、診察だ。貧血気味なんだろう?」
奏佑が優しく声をかけ、菜々美の腕を掴んでその胸にそっと抱き寄せた。
硬くなっていた菜々美の身体から力が抜け落ちる。
彼女の苛立っていた心までも静まっていく様だった。
中塚は、ただ見守っていた。
この二人には目に見えない絆があるようだ。
そこに、自分が割り込んで行けるのか?
「菜々美…仕事が忙しくて連絡できなかった。すまない。」
菜々美の背をゆっくり撫でながら、その耳元に小声で奏佑は呟いた。
ピンと張り詰めた糸のような菜々美に触れて、自分の思い上がりを知ったのだ。
「別に…。」
まだ、菜々美は強がっている。もっと早くに彼女に会うべきだった。
何度でも声をかけ、お前が何より愛おしいと伝えるべきだった。
「菜々美…顔色がすごく悪いんだ。ドクターに診て貰えよ。」
「中塚…大丈夫…大丈夫よ…。」
そう言いながらも、彼女の身体がぐらりと傾く。
「菜々美!」
奏佑の声なのか中塚の声なのか…名前を呼ぶ声が聞こえたがどちらの声かわからない。
菜々美は意識がスーッと薄れていくのを感じて、もう目を開けていられなかった。