私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「あ~あ。しゃあないなあ…。」
マンションを出た郁也はボヤキながら歩いていた。
すれ違う人が怪訝な顔で、何事かと振り向いて行く。
「あ~あ…。」
やっぱり、アイツだったな。
菜々美を抱きとめた男の必死な顔を見て、郁也は負けを認めざるを得なかった。
「…本気でぶつかる前に砕け散ったよお、木下…。」
ひたすら歩いて会社へ向かった。歩く事で、気持ちを吹っ切ろうと思ったのだ。
「アホやなあ、オレ…。」
これまで、同期の立場に甘えて彼女を口説くなんて考えていなった。
その結果が、ただ歩いている自分だ。
高円寺から新宿までどれくらいかかるだろう。一時間くらいかもしれないが。
歩いて、歩いて…菜々美を忘れられるなら、いくらでも歩こう。