私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
昼間でも高円寺のマンションの辺りは静かだった。
菜々美は洗面所から出て来ない。時折、水の流れる音がするだけだ。
奏佑のスマートフォンは着信が相次いでいた。
だが、体調が悪そうな菜々美を置いて大学病院へ戻る気になれない。
急患や患者の急変では無かったので、電話で指示を出して他の医師に任せた。
やっと、菜々美が洗面所から出て来た。顔色はますます青くなっている。
「菜々美、一緒に来い。」
「何処へ…?」
「病院だ。点滴しないと脱水症になる。」
「イヤ、行かないわ!」
「菜々美、頼むから落ち着いて。医者の言う事を聞け。」
「大丈夫よ。病気じゃあないもの!」
冷蔵庫からスポーツドリンクを手に取ると、菜々美はひと口飲んだ。
「もう大丈夫です。お仕事があるんでしょう?お帰り下さい。」
菜々美とゆっくり話がしたいし診察もしたい。だが、今は時間が無い。
又、着信があった。もうリミットだ。
「それなら、明日は会社を休んで絶対に病院へ来い。
恒三さんからも話があるから来てほしいとの事だった。
その時に悪い所がないか、検査をしよう。受付に話は通しておく。」
「…わかりました。血液検査、貧血の検査だけなら…。」
「明日、病院で待ってる。」