私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠


 ノックをして特別室に入ると、祖父はベッドにもたれて新聞を読んでいた。

「ああ、菜々美。体調はどうだい?」

「ご心配おかけしてすみませんでした。今、血液検査をお願いしています。
 たぶん、チョッと疲れただけかと思うんですが…。」

「まあ、検査の結果を聞いたらはっきりするだろう。」

「はい。結果が出るまで、ここにいてよろしいですか?」

「勿論だ。今日は用事があって君を呼んだんだ。」
「どのようなご用件ですか?」

「そこのサイドテーブルの上のノートを取ってくれないか?」

「これ…この大学ノートでしょうか?」


ベッドサイドには数冊の古い大学ノートが重ねてあった。

「君にこれを読んでもらおうと思っていたんだよ。」

「私に?」

絹江(きぬえ)が…君のお祖母さんが書き残した物なんだ。」

「お祖母様が?」

「きちんとした日記帳でなく、大学ノートと言う所が絹江らしいんだよ。」

「そうなんですか…。」

菜々美は一冊を手に取ってパラパラと捲ってみた。
すると柔らかく丁寧な筆跡で、細かな文字が流れるように綴られていた。

「とても字の綺麗な方だったんですね。」

「大学ノートを使うくらい大雑把なのに、妙に細かい所もあってね。」
「まあ…。」

「お前の父さんも似ていたよ。そういうところ。」

「じゃあ、私もお祖母様に似ているかもしれません。」

「菜々美…。そっくりだよ。絹江と君は。」

恒三はすぐ側にいる菜々美ではなく、遠くを見つめている様だった。



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