私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
奏佑と菜々美が部屋を慌しく出て行くと、特別室はシンと静まりかえった。
恒三はその静けさの中で、ここにはいない妻に向かって呟いた。
「二人とも、10年前は若すぎて、幼すぎたんだよ。」
恒三は大学ノートをパラパラ捲った。
「絹江…。やっと、君の願いが叶いそうだよ。」
ノートには、絹江が目にした菜々美と奏佑の事が書き記されていた。
『とてもいい出会いが菜々美にありました。』
『二人並んで歩いている姿がお似合いです。』
『菜々美も相手の方も、いい笑顔でした。』
『菜々美のお勤め先のドクターで、脇坂奏佑さんとおっしゃるそうです。』
「絹江…二人を見守ってやってくれ…。」
恒三がノートを読んで妻との思い出に浸っていると、ノックの音がした。
あの二人にしては早すぎる。
返事より早くドアが開いて、ひょこり顔を見せたのは、鳴尾要だった。
「じい様~、チョッと見て頂きたい書類がありまして…。」
「お前は連日、用事を作ってやって来るね。」
「今日のはとっておき。極秘情報ですよ。」
要はニンマリと笑いながらベッドに向かって歩いてくる。
「おお怖い笑顔だ。余程、楽しい話題なんだろう。」
「親父がアジアの某企業と提携しようと画策している文書です。」
「ほう…いよいよやってくれたか。」
「じい様。これで、新年の互例会では例の件、決まりでしょう。」
「仕方ないね、自分で墓穴を掘ったんだ。」
二人は顔を見合わせて、含み笑いをした。笑い方が良く似ている。
「頼りにしてるよ、要。年が明けたらお前が副社長だ。」