私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠




「好きなんだ、君が…。」



奏佑は真っ直ぐに菜々美を見つめた。菜々美も、もう揺るがない。

「聞きたかったの。その言葉を…。」

「菜々美、もしかして…。」

「え?」
「もしかして、あの夜に俺が言った事、覚えていないのか?」

「あの夜?」

菜々美が怪訝な顔をした。

「…やっぱり。もしかしたらとは思ったが…。」

「何が?」

そっと、奏佑は立ち上がり、菜々美の顔を真上から見下ろした。
少しだけ屈んで、菜々美の顔に近付く。

「君を抱きながら、10年分の告白をしたつもりだったんだが。」
「そうなの?」

「…覚えていなかった…。」

菜々美の頬がじわじわと赤くなっていく。

「ごめんなさい…。何が何だか…恥ずかしいけど夢中で…。」

「ま、初めてだったしな。」
「言わないで、この年まで何も知らなかったなんて…。」


チュッと、軽いキスを奏佑が落とした。

「こんな嬉しい事は無いんだ。君を抱くのは、俺だけだ。」
「私も、先生がいい…。」

「もう、離れたくない。これからずっと側にいて欲しい。」
「先生…。」

その時、院内放送で、ドクターハートが流れた。患者の急変を知らせている。

「ああ、行かなくちゃ。」


奏佑は告白はしたものの、まだ気がかりなのか菜々美の手を離さない。

「行って下さい、先生。私は大丈夫。待っていますから。」
「菜々美…。」


『待っています。』

その言葉が嬉しくて、奏佑はやっと笑顔になれた。久しぶりに心から笑っている表情だ。


「行ってくる。」


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