私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
あの日終わった恋
「菜々美…。又、会おう。」
祖父がはっきり菜々美に告げた。今日で終わりでは無いと言っているのだろう。
渋々、菜々美も頷いた。
「わかりました。」
祖父は貞子に車イスを押すように指示すると、部屋から出て行った。
嫌な沈黙が流れた。祖父の後、誰も応接室から出て行かない。
門から続く砂利道を走るタイヤの音が聞こえた。
呼びつけたタクシーが到着したようだ。
だが音が2台分だ。応接室の窓から覗くと、二台の車が見えた。
タクシーと、もう一台は普通の乗用車だ。
「あ、お祖父さまの主治医の先生がお見えだわ!」
瑠美が今日初めて聞く、嬉しそうな声を出して立ち上がった。
主治医を迎えるのだろう。玄関に向かっていく。
「それでは、私はこれで失礼いたします。」
菜々美もゆっくり立ち上がり、大介と貴子に挨拶をした。
二人は無言だ。大介だけが頷いた。
上条と高村がわざわざ、玄関ホールまで見送りに来てくれた。
「お気をつけてお帰り下さい。」
「はあ…。」
俯き加減で靴を脱いでいるのが主治医だろう。顔は良く見えないがまだ若そうだ。
瑠美がすでにべったりと張り付いている。
『いいのかな、高村弁護士の前で…当てつけかな…』