私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「脇坂先生、今日はゆっくり出来ますの?」
「いえ、診察に来ただけです。瑠美さんこそ、別荘まで来られるなんて…。」
『脇坂…』
その名前を聞いた瞬間、菜々美は神経を張り詰めさせた。
側にいた上条と高村は気付かなかった様だが、菜々美の緊張は半端ない。
心臓がバクバク音を立てそうだ。
そっと、瑠美が張り付いている医師の方を見た。
『あの人だ…』
菜々美の視線を感じたのか、医師も彼女に目を向けた。
「あ、失礼しました。お客様だったんですね。」
脇坂医師は菜々美の方を見て、まったく表情も変えずに会釈した。
菜々美も俯き加減でそっと一礼してから外に出た。
「お客様じゃないから、気になさらないで。」
背中に瑠美の甘ったるい声を聞きながらタクシーに向かって歩く。
雲の上を歩いている気分だ。足に力が入らなかった。
「またご連絡させていただきます。」
上条の声が遠くで聞こえた気がする。
振り向きもせず、菜々美は車に乗り込むとすぐに発車させた。
「急いで駅までお願いします。」