私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
タクシーを降り、駅で切符を買って特急電車に乗った。
タイミング良く、殆ど待ち時間無しに列車に乗ることが出来て幸いだった。
電車のシートに倒れ込むように座ると、菜々美は彼の事を想った。
『脇坂奏佑…』
間違いなく、彼だった。
背の高さも、柔らかな少し栗色っぽい髪も、低くて落ち着いた声のトーンも…
10年程前、こっぴどく振られた男。脇坂奏佑だった。
菜々美が30近いのだから、彼もそろそろ40になるだろう。
あまり老けたようには感じられなかったが…。
まだ独身かな…瑠美が張り付くくらいだから、独りなのかもしれない。
10年も経つのに、あの頃の思い出はいつも菜々美を苦しめる。
『お母さん…』
呟きは、心の中で助けを求めている証拠だ。
こんな時はつい、母に甘えたくなる。
亡くなった母、瑠衣は、美人でしっかり者の自慢の母だった。
二人並ぶと母が美人過ぎるので、菜々美が娘だと紹介された殆どの人が
母と娘を見比べて、残念そうな顔をしたものだ。
そのせいで、菜々美は容姿については自己評価が低くなってしまったのだが…。
比べる相手がミス○○級の美人なのだから仕方が無い。