私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠


父親の太一郎(たいちろう)は売れない作家だったらしい。
一度何処かの新人賞は受賞したようだが、それ以外はサッパリだった。

母が受付として勤める診療所に、胃潰瘍で出血騒ぎを起こしたりして
しょっちゅうかかっていたそうだ。

どういうきっかけで恋に落ちたのかは生前に聞けなかったが
二人は恋愛結婚して、菜々美が生まれた。

その頃は母の母、祖母も健在で
江古田にある祖母の家に、家族四人で暮らす平和な日々だった。

でも、菜々美が小学生の時に父が。
中学に入ってから祖母が。
そして、高校3年生の時に母が亡くなった。

幸せは長続きしない…それが菜々美の得た教訓だった。

母が勤めていた『田原(たはら)診療所』の院長がとても良い方だった。
長年勤めてくれたのだからと葬儀を取り仕切り、
天涯孤独だと信じていた(当時)菜々美の身の振り方を心配してくれた。


高校を卒業した後は院長の勧めもあって、午前中は『田原診療所』で受付の仕事。
午後からは予備校に通って大学を目指す生活が始まった。

母は、診療所ではレセプト業務を任されていたそうだ。
母が病気で入院してからは派遣会社に任せていたが、
菜々美がバイトに入ったので、もう一人の受付とその業務を引き継ぐことになった。
その子も就職したばかりだったし、未経験の二人には大変な仕事だった。

病院の収益に直結しているし、医療の知識も必要になる。

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