私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
最初は査定が恐ろしくて、支払基金や国保連合会から届いた封書を開けるのが怖かった。
逆にスタッフ達は、『難しいけど、頑張って』と励ましてくれたのだが、
もう一人の受付は早々にギブアップしてしまい、結局菜々美一人が担当になった。
そんな時期に院長が交通事故に合い、骨折してしまったのだ。
スタッフが途方に暮れる中、代診として週に何回か来てくれることになったのが
大学病院に籍を置いていた脇坂奏佑だった。
背が高く、優しい顔立ちをした奏佑は患者さんの受けは良かった。
だが、まだ若い奏佑は、自分にも周りのスタッフにもとても厳しかった。
ベテランの看護師に対して堂々と意見を述べるし、受付にも容赦がない。
訪れた患者さんの様子を速く正確に伝える事を求められ、
カルテの内容についても、どれくらい理解出来ているか追及された。
「君は、まだ勉強が足りないね。」
「高校出たばかり?それでこの仕事、大丈夫?」
何度、奏佑から辛辣な言葉を投げつけられただろうか。
もう一人の受付の子は泣き出したてしまった事もあった。
でも、菜々美は仕事に対して厳しかった母を思い出して努力した。
亡くなった母が大切にしていた仕事を放り出したくなかったのだ。
患者さんに気配りする事と、正確に会計をする事。
緊張していたら悲しみも忘れて、毎日があっという間に過ぎて行った。