私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠

 その土曜日も、診療時間が終わった後に黙々と菜々美はレセプト点検をしていた。

千人近い患者さん一人一人に間違いが無いか点検する。
収入に直結するから総点数を計算したり負担金も間違っていないか確認する。

この診療所では、院長先生がパソコン嫌いだったから、
まだレセコンが導入されていなかったので時間が掛かるのだ。

ある程度は事前にチェックをかけているが、一人で点検するのだから
締め切り前の二日ほどは、連日遅くまで作業をしていた。

「まだ残ってるの?」

もう夕方なのに奏佑が顔を見せた。何か忘れ物でもしていたのだろうか。

「はい。今日はレセプトの点検と総括をしていました。」

「まだ時間かかるの?」

「ええ…。公費の計算があわなくて…。」

「どれ?」

やっかいな負担金の計算に手こずっていたら奏佑が覗いてきた。

「うわ~。ややこしい。」

二人で、ああでもないこうでもないと計算していたら夜7時になってしまった。

「すみません先生、遅くなってしまって。後は私がやりますので。」

「いいよ、あと少しじゃない。やってしまおう。」


いつも叱られてばかりだったのに、奏佑は優しかった。



< 20 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop