私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
総括の計算が完璧に出来上がったのは、8時になる頃だった。
「遅くなったけど、きちんと出来上がるって気持ちいいね。」
「はい!ありがとうございました、先生。」
「じゃあ、送るよ。家はどのあたり?」
「いえいえ、近所なんです。そこまで先生にしていただいては…。」
「女の子を夜遅くに一人で帰したってわかったら田原先生に叱られちゃうよ。」
「すみません…。」
菜々美が、生まれて初めて男性の車に乗せてもらった日だ。
ドキドキして、何を話したのか覚えていないが
ほんの5分の距離でも、奏佑とドライブした記念日になった。
その日から、菜々美の恋は始まった。
診療所で働くのがとても楽しくなった。奏佑を見かけると笑顔でいられる。
毎週土曜日は彼に会いたくて、なるべく勤務に入るようにした。
翌月、月初めのレセプトを点検する頃には
『わからない所はないか』と彼の方から声を掛けてくれるようになった。
遅くなった日は、『乗ってけよ。』と言って車で送ってくれるし、
奏佑から夕食に誘われた時は舞い上がりそうだった。
二人で話していると、看護師達がニヤニヤと見つめていた。
『何でしょうか?』
『いえいえ、若いっていいわねえ~。』
冷やかされる事すら嬉しかった。皆が認めてくれてるように思えたのだ。
病名や薬の内容も、彼が丁寧に教えてくれる。
そのおかげでレセプトの完成度はグンと高くなり、
査定や返戻がずいぶん減ったので院長夫人から喜ばれたのも懐かしい記憶だ。
『もしかして、脇坂先生も私の事…。』