私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
車窓からぼんやりと暗い景色を眺めていた。
段々とネオンの明かりが眩しいほどになってきた。
もうすぐ東京だろう。
列車の中で、ずっと彼の事を思い出していたのか…。
『迷惑だ。』
彼の低い声が蘇る。
その通りだ。前途あるドクターに、親を亡くした小娘など不要だろう。
あれからすぐ、『受験に専念します』と言ってアルバイトを辞めた。
辛くて辛くて、彼の近くにいられなかったから。
母や祖母が残してくれたお金を大切に使って、
何とか生活し、予備校に通い、志望校に合格した。
誰にも迷惑を掛けない様に、一人で生きて行けるように…。
母の様に、ちゃんとした仕事があれば大丈夫なはず。
春になって、無事志望校に合格した事だけ『田原診療所』に報告に行った。
彼は…脇坂奏佑はあの後、大学病院に戻ってボストンの大学へ留学したと聞いた。
『終わった…。遠くへ行っちゃった…。』
その日、私は彼への恋は『終わった』事にしたんだ。
それなのに、今日再会するなんて……運命?
いやいや、何バカな事を…あちらは私の事など覚えてもいなかったじゃない。
これを『再会』とは言わない。すれ違っただけ。
二度と会う事など無い人だ。思い出ごっこは、今日でおしまい。