私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「おっ瀬川、しけたツラしてんなあ~。」
階下に降りようとエレベーターホールに向かっていたら声を掛けられた。
同期入社の中塚郁也だ。
「あれ、中塚じゃない。もうこっちに来てたの?」
「ああ、今週からこっちや。」
「連絡くれたら同期で集まったのに…。」
「まだ引継ぎでバタバタしてんねん。」
私が多少なりとも大阪弁らしい言葉に馴染んだのは、この男のせいだ。
中塚も関東出身で、同じ時期に大阪支社に転勤した仲間だ。
あっちでは、言葉がわからないと仕事にならない事が多々あって
二人で漫才のように喋る練習をしたものだ。
「前より、大阪弁ぽく聞こえる…。」
「そうか?」
嬉しそうに笑う中塚を見て、近頃ずっと考えていた件を相談しようと思い立つ。
「中塚、大学の友達に銀行関係の人いる?」
「そりゃ、それなりに…。」
「相談したい事があって、紹介してもらえないかな?」
「婚活?」
「アホくさ。」
「なら…。何で?訳アリ?」
「家の事。」
「ああ…。了解。」
同期はありがたい。直ぐに事情を理解してくれたようだ。
「近いうち、連絡する。」
「お願いします。」
中塚は鉄鋼部門のエリートだった。
だが、他社の金属鉄鋼部門と合併して新会社を設立する時に、
そこには呼ばれず大阪に転勤になった。
彼としては不本意だったろう。いきなり繊維担当になったのだから。
それでも明るく働いている彼の仕事ぶりは、同期とは言え尊敬していた。