私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
中塚がすぐにわかってくれた『家』というのは、瀬川家所有の家の事だ。
築50年にはなる古家だが、江古田の立地なら土地だけでも価値がありそうだ。
菜々美が大阪に転勤になった3年前、
たまたまお隣さんが新婚の息子夫婦の家を探していたから貸していた。
去年東京本社に帰って来た時、若夫婦はお子さんが生まれたばかりだったので
出て行ってくれとも言えず、菜々美は困ってしまった。
だから今は、友人が紹介してくれた高円寺の賃貸マンションに住んでいる。
一年くらいマンションに住んでみて、会社への通勤も便利だし高円寺が気に入ってしまった。
この先お一人様で生きていく為にも、生活の場は大切だ。
お隣さんからは、再三家を売って欲しいと言われていたし
今回の鳴尾家との騒動で、菜々美は気がついてしまった。
『あの人達と同じ世界には行きたくない』
お金が大切で必要だという事は経験で知っている。
でも、遺産を貰ったら『あの人達の世界』に片足突っ込む事になる。
自力で生きていきたいし、働いて生きていきたい。
その為には江古田の家は古すぎる。これから永く住む場所を確保しよう。
お一人様だっていいじゃないか。
もう誰からも、『迷惑だ』なんて言われたくないんだ。