私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「もう、いきなり声掛けないで下さい!」
小料理屋を出るなり、菜々美は要に強く言った。
要はさっきの機嫌良さそうな表情とは一転して憮然としている。
こっちが素なんだろう。
「たまたま仕事帰りに飲んでたら…。何ですか、あなた。」
「はあ?」
「男漁りでもしてるのかと思ったら、マンションをローンで買う?」
「ずっと話を聞いてたんですか?」
「聞こえたんですよ。」
「聞き耳たてないで下さい。」
「遺産が入ったら、ポンとマンションくらい買えるでしょうに。」
「マンションくらい…?」
この人達の価値観はどうなっているんだろう。
「…何度も言わせないで下さいよ。いりませんってお伝えしています。」
「あなたはそうでも、じい様は諦めていませんよ。」
「諦めていないってどういう事ですか?」
「待っててごらんなさい、10月初めにに内輪のパーティーがありますから、
あなたも声が掛かるでしょう。」
「パ、パーティー?」
「じい様の退院祝いか何かにかこつけて、あなたを呼び出すつもりだから。」
「何で…私なんか…。」
「じい様が気に入ったんでしょう。親父もあなたを取り込みたそうですし。」
「取り込む…?意味がわかりません。」
「ま、お楽しみに。」
捨て台詞を残して、要は夜の街に消えて行った。