私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「じゃあ、先生の出番かな。」
恒三が冗談めかして声を掛けると、ドアを開けて奏佑が入ってきた。
「はい、お時間です。お部屋に戻りましょう。」
脇坂奏佑はいつからこの屋敷に来ていたのだろうか?
すっと現れると恒三に付き添って応接室を出て行った。
「菜々美、またおいで。」
ドアから出る時に、恒三は振り向いて菜々美に告げた。
チラリとこちらを見た奏佑が一瞬目を見開いたように見えた。
「はい…。」
何とか、微笑むことが出来た。
『菜々美』という名前だけは、奏佑にも覚えがあったのかもしれない。
『私の事、気がついた?』
それからは、商社の広報マンとして奥様方からの質問に丁寧にお答えしたが
心の中は乱れたままだった。どうしても彼の顔が浮かんでくる。
『ダメだ…。』
少し早いが、失礼しよう。
高村にそっと帰る事を告げて、パーティー会場を出た。
玄関には、先日軽井沢で会った女性が控えていた。
今日は白い割烹着ではなく藍色の絣だろうか、キチンとした和服姿だ。