私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「先日はお世話になりました。」
菜々美がお辞儀をすると、女性は微笑んだ。
「とんでもございません。こちらこそお目にかかれて嬉しゅうございました。」
「あなたは…父をご存知なんですか?」
「はい、長く家政婦を勤めております、前田貞子と申します。
私がこちらのお屋敷に勤め始めた頃、大学生でいらしゃいました。」
「そんなに前から…。」
「ですから、菜々美様にお目にかかれてホントに懐かしくて…。」
「私、父に似ています?」
「はい!とっても!」
二人で顔を見合わせて笑っていたら、廊下の奥から奏佑が出て来た。
慌てて菜々美は会釈して。玄関から出ようとした。
「菜々美…。」
後から、奏佑の声が聞こえる。
振り向くべきか、無視するべきか…。
「菜々美だろう?脇坂だ。覚えてる?」
そこまで言われたら、もう知らん振りは出来ない。
ゆっくりと、菜々美は振り向いた。営業スマイルを浮かべて。
「お久しぶりです、脇坂先生。」