私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
『私の長男は、物書きになりたいから家業は継がないと言って、
大学を卒業したら家を出ていったんだ。だから、私が勘当したんだよ。』
『勘当ですか?』
『30年以上昔の話だよ。私も若かった。今思えば、意地を張ってたんだね。
会社を継がない息子なんて、家にいても仕方が無いと切り捨てた。』
『はあ…。』
『君の実家は病院だったかな?』
『うちは、兄が継いでます。』
『そうか…我社は弟の大介に継がせたが…妻は長男が諦められなくて。』
『お子さんの事はいくつになっても心配でしょう。』
『こっそり、何処で何をしているか調べていたらしい。』
『そうでしたか。』
『結局、売れないまま亡くなったがね。』
『それは…お気の毒です。』
『でも美人と結婚して…。瀬川結衣さんというんだがね。その家の婿になっていたよ。』
『モテたんですね、息子さん。』
『さあね…頭は良かったんだが、モテたとは思えんな。』
『その方のお子さんが…もう一人のお孫さん?』
『ああ。菜々美って言うんだ。』
『菜々美…』
『妻が亡くなってからわかった事だが
母親も高校の頃亡くしていた。大変な苦労をさせてしまっていた。』
奏佑は絶句した。それでは、10年前に自分が知り合っていたのは…。
『田原診療所』で知り合った瀬川菜々美は、鳴尾恒三の孫なのか?
恒三は、じっと奏佑の顔を見つめていた。
いつも温和な奏佑の整った顔が、少しばかり歪んでいるのを。