私、あなたの何なのでしょう？ 10年目の再会は愛の罠

　一年前、やっとボストンから東京へ帰ってきた。
呼吸器専門医として大学病院で働く事になった挨拶をしに、『田原診療所』へ足を運んだ。


当時のスタッフは暖かく迎えてくれたが、勿論そこに菜々美はいない。

ポッカリと胸に穴が開いたような気がした。

彼女はまだ、自分の事が好きなはず。
自分をずっと待ってくれてるはずと…勝手に思い込んでいたらしい。

もう40に近い男が、彼女に対してだけは馬鹿みたいに純情だ。

未練がましく、何度か送った菜々美の家へ車を回してみたら…。

たまたま、菜々美が家の前にいた。その腕に、小さな赤ん坊を抱いて。

10年前とあまり変わっていない。
柔らかい微笑みも、ほっそりとした身体も…。

ただ、子供を胸に抱いている以外は。

そうか…もう結婚して…母親になっていたのか…。


あれから10年近い歳月が流れたんだ。

俺にとっての10年と、菜々美の10年。

この差はなんだ。

俺が彼女を選らばなかったから…。
菜々美は違う男と、俺と交わらない人生を歩んでいたんだ。


あの日の彼女からの真摯な告白を振り切った自分を、ただ呪った。

もう、やり直せない。もう、手に入らない。
すべて、思い出になってしまった。