私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
その時に奏佑が見かけたのは、大阪支社から本社に帰ったばかりの菜々美だ。
貸していた瀬川の家に住んでいるお隣さんの息子夫婦に生まれた赤ちゃんを抱いていた時だ。
つい可愛くてあやしていた所を、たまたま見かけて誤解したのだろう。
そんな事情を知らない奏佑には、恒三の話を聞いても疑問だけが残った。
裕福な鳴尾家の孫だという『菜々美』と、
自分が10年前に知り合った『菜々美』。
子供を抱いていた一年前の『菜々美』と、
パーティーの夜に見かけた毅然とした『菜々美』も別人の様だ。
『いったいどうなっているんだ。』
菜々美に直接聞けばスッキリするのだが、どうやら彼女には避けられている。
『仕方ないさ…。あんな別れ方をしたんだから。』
別れるという言葉さえ不適切だろう。
これから恋を始められそうだったのに、彼女の告白を手酷く蹴ったのだ。
『出来るなら、もう一度…。』
彼女と会いたい。
だが、結婚していて子供がいるのか…?
恒三氏は結婚しているとは言っていなかった。彼に菜々美と会わせて欲しいと頼むか?
それも…躊躇した。
孫に会えたのが嬉しくて仕方ない人物に、彼女に気がある素振りを見せたら…
きっと主治医から外されて終わりだ。
『くそっ。何とか、菜々美と話がしたい…。』