私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
土曜日だからか、ホテルのロビーは混み合っていた。
10月中旬の吉日とあって披露宴が多いのかとも思ったが、
結婚式らしい服装だけでなく、スーツ姿の男性や研究者のような女性が多い。
何か大きな学会が開かれているらしい。
ロビーで待ち合わせた中塚は、人混みの中でも目立っていてすぐに見つけられた。
体格のいい彼に、花紺青のスーツが意外に似合っていて驚いた。
「馬子にも衣裳だねえ。」
「そっちこそ、化けたな。」
「美容師さんの腕が良くて、助かったわ。」
菜々美はさっきのショックは隠したまま、笑顔で言った。
「お前…ちょっとおしゃれしたら、そこそこじゃないのか?」
「そこそこ?」
「いや、まあまあかな?」
ホントに、中塚はいつも笑わせてくれるヤツだ。
二人で冗談を交わしながら、エスカレーターに乗って披露宴会場へと上がって行く。
正午になって学会の休憩時間になったのか、下りのエスカレーターは混みあっていた。
ふと、視線を感じて上を見上げたら、脇坂奏佑の姿が見えた。
向こうは先に気がついていたのか、こっちを見ている。
ゆっくりと動くエスカレーターは上りと下りですれ違う。
菜々美は彼から目を背けたが、ずっと奏佑からの視線を感じていた。