私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
エスカレーターに乗っているのが、物凄く長い時間に感じられた。
奏佑がこんな近くにいるせいだ。手を伸ばせば届きそうな距離だった。
受付けの準備をしようと手は動いているのだが、菜々美はボンヤリしていた。
そんな時、中塚のスマホが鳴ったので、菜々美は飛び上がる程驚いた。
「あ、マナーにしてなかった。ゴメン…。」
「まだ時間は大丈夫よ。出たら?」
「ああ…。お袋だ。チョッと向こうで話してくる。」
中塚は小走りで、少し離れた静かな場所に移動して行った。
「ふう…。」
披露宴はこれからだというのに、疲れてしまった。気疲れか。
まさか、奏佑が追ってはこないだろうが、気持ちは静まらなかった。
受付のテーブル横に、頼まれていたウエルカムボードを飾りながらため息がでてしまう。
新婦の力作だ。真っ白いバラのリボンフラワーが華やかだった。
ため息をつくと幸せが逃げていくというが、止まらないものはしょうがない。
『ま、逃げる程の幸せなんて無くてもいいか。』
中塚は何処まで行ったのか、近くに姿は見えなかった。