私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
会場から離れた廊下の隅で、中塚郁也は必死で母親からの電話と格闘していた。
「…ハイハイ、…わかったから母さん、また電話する。」
郁也が何とか母親からの電話を切ると、側に背の高い男性が立っていた。
少し年齢は上の様だが、スラリとして穏やかそうな紳士だ。
自然な笑みを浮かべて、一歩近付いて来た。
「君、瀬川菜々美さんのご主人ですか?」
「は?」
「さっき、エスカレーターですれ違う時にお見掛けして…。」
「あなたは?」
「菜々美さんの昔の知り合いです。ご親戚の主治医をしています。」
「…瀬川とは、会社の同僚ですが。何か彼女にご用ですか?」
「いえ、特には。偶然お見掛けしたので、ご挨拶をと思っただけです。」
「今日は友人の結婚式なので…。もう始まる時間が近いんですが。」
「そうでしたか。お忙しい時にすみません。」
「何か、彼女に伝えましょうか?」
「いえ、結構です。急ぐわけではありませんので。」
「あの…菜々美は、独身ですよ。何か勘違いされてるんじゃないですか?」
「独身?ご結婚なさってお子さんがおられるとばかり思っていました。
それは、大変に失礼な誤解でしたね。」
その男性は、にっこりと満面の笑顔で郁也に会釈して去って行った。
何だ?あれ?
菜々美の親戚の…主治医?
アイツに親戚いたっけ…?
「ま、彼女と結婚したいな~とは、思ってますけどね…。」
一人になると、郁也は誰にともなく呟いた。