私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
奏佑にとって、何とも歯がゆい時間だった。
菜々美は過去に囚われたまま、自分と距離を置いている。
逆に、一歩も二歩も遠ざかっていく気がする。
「今、何処に住んでるの?」
「高円寺に…。」
「独り?」
「ええ、まあ。」
ああ、やっぱり子供を抱いていたのは俺の勘違いだったんだ。
「そうか。俺もだ。」
ホッと安心してしまった。
「先生、ご結婚は…?」
「仕事が忙しすぎてね。」
「そうですか。」
「菜々美、良かったら…この後食事でも。」
「ごめんなさい。」
「じゃあ、送ろうか。」
「いえ、大丈夫です。」
「でも、…。」
「先生、鳴尾恒三さんの事、宜しくお願いいたします。」
「勿論、出来る限りの事はするよ。」
「ありがとうございます。じゃあ、これで…。」
「ああ。また…。」
まだ言い足りない事が沢山あるのに、それ以上言葉を続ける事が出来なかった。
『何やってるんだ、俺は…』
もう、大人になった菜々美に遠慮する必要はない。
あの頃は、まだ未成年だった菜々美に触れる事すら戸惑われた。
今なら、彼女と堂々と向き合う事が許されるんじゃないか?
彼女に思いを伝えられるというのに…結局何も言えなかった。
『菜々美、俺は…。』
奏佑には、10年の歳月が重い。