私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠

 秋の日暮れは早い。夕方5時を過ぎるとあっという間に薄暗くなる。

中塚郁也(なかつかいくや)は、取引先から会社に帰る途中だった。
交差点でバッタリ、いつか小料理屋で会った菜々美の従兄妹に出くわした。

「あ…、お疲れさまです。」

「ああ、君は菜々美の…。」
「同僚の、中塚です。」

「いいタイミングだ。急いでる?」
「いえ、特には。」

「ちょっと付き合って。」

鳴尾電子の御曹司のお誘いだ。中塚から断る事は出来ない。
二人は近くのカフェに入った。


「菜々美とは同期なんでしょ。」

「はい。」

「この前、見かけた時に思ったけど、君の前だとあの真面目でソツのない
 菜々美の表情が自然だよね。」
「はあ…。」


「素のままっていうか、飾らないっていうか…。」
「まあ、同期ですし…大阪支社にも何年か一緒に行って苦労しましたから。」

「結婚とか、約束してないの?」

飲んでいたラテを吹きそうになったが、必死で堪えた。


「まさか、そんな話は1ミリも無いですよ。」




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