私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
ルートから液体が上手く入りだしたのだろう。一礼して若い看護師は出て行った。
残された四人は、それぞれ相手に遠慮があるのか、誰も何も喋らない。
ポツポツと落ちる薬液の調節をしていた奏佑の手が止まった。
今度は、恒三の脈をとっている。
「菜々美…中々、祖父さんとは呼んでくれないね。」
やっと、恒三が口を開いた。意外にしっかりした声だ。
「申し訳ございません。生まれてから30年近く、その言葉を口にした事が無かったので…。」
「そうだなあ。」
「少し、照れくさくもありまして、申し訳ございません。」
「至らない祖父さんだが、この通り、もう長くはなさそうだ。」
「そんな…。」
ニンマリと点滴の管が続く腕を見せながら、恒三が言った。
奏佑が少し顔を歪めたのがわかった。
「お前の花嫁姿が見たいなあ。ひ孫を抱きたいなあ…
せめて、お前が結婚して幸せになるところは見届けたいなあ…。」
「そんな事を仰らないで、元気出して下さい。」
少しムキになって菜々美が言うと、またニンマリと恒三が笑った。
「菜々美、この高村弁護士なんかは、結婚相手にどうだい?
キチンとした仕事はするし、顔も良い。優良物件だぞ。」
「はあ…?」
「高村君はどうかな?菜々美が相手だと、何か不足があるかい?」
「私は大歓迎ですが、菜々美さんにも選ぶ権利はありますから。」
ソツのない答えを高村はするが、本心ではないだろう。
「だ、そうだよ。菜々美。是非とも前向きに考えて、よい返事をくれたまえ。」
いつの間にか、奏佑は部屋から出て行っていた。