私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
どれくらい時間が経ったのだろう。スマホの着信音で菜々美は覚醒した。
自分のか?
いや、奏佑の声がした。彼への電話だろう。
うっすらと目を開けて周囲を見ると白っぽい壁が見えた。
生活感のない、まるで病室にいる様な空間。
彼は、こんな場所に暮らしているんだろうか?
自分は裸でベッドの中。バスローブ姿の奏佑が窓際で電話しているのがわかった。
「…そうか、直ぐに行くから。…ご家族にも連絡して…。わかった。」
「病院から?」
「ああ、起こしてしまったか?」
「今、何時?」
「もうすぐ日付が変わる…。」
「…帰ります。」
「菜々美!」
「タクシーで帰りますから…。」
彼の前で着替えるのは恥ずかしかったが、無言でお互いに服を着た。
彼が呼んだタクシーは、まず奏佑が勤務している病院へ向かう。
「また、連絡する。」
ひと言だけ告げて彼はタクシーを降り、病院へ走って行った。
それから、そのタクシーで高円寺のマンションへ。
奏佑が料金を払っていたらしい。
そんな事にも気付かないほどボンヤリしたまま、菜々美は自分の部屋へ戻った。