私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
瞬く間に、一日が過ぎ二日が過ぎ、三週間が過ぎた。
奏佑は苛立っていた。
急患だとか、紹介患者だとか、捌ききれない程忙しい上に、
教授の代わりに論文の仕上げまで任された。
菜々美との濃厚な夜を過ごせた喜びはあるのだが、
これでは忙しすぎて、菜々美と会う時間が取れそうにない。
連絡を取る事すらままならない。
思えば、自分でもあの夜の行動は信じられなかった。
鳴尾恒三氏の病室で菜々美と会ったとたん、太いネジがブチ切れた。
会社帰りの菜々美を見た途端、懐かしい思いが湧き上がってきたのだ。
『田原診療所』の仕事帰りに、喋ったり食事に行ったりした若い日。
あの頃の菜々美の自分を見つめるキラキラとした眼差し。
もう一度、手にしたいと思った。
『お前の花嫁姿が見たい。』
『ひ孫が抱けたら…。』
鳴尾氏は何を言ってるんだ。
菜々美の相手は俺だ。
この青っ白い弁護士なんかに渡してたまるか!
この男と菜々美が子作りだって?冗談じゃない。
そこから先は、怒りだか何だかわからない勢いで菜々美を抱いた。
彼女も拒否しなかった。
初めての男として、俺を受け入れてくれた…。
その事実は嬉しかったが、余韻に浸る事も出来ずに病院からの電話で引き離された。
ゆっくり菜々美と話す時間も無く、彼女にプロポーズする間もなく…。
彼女を送り届ける事すら出来ないまま、多忙な日々が始まった。
これが医者の現実だ。
のんびり恋人と過ごす時間もままならない…。
残念な事に、あの夜…愛を交わしながら何度も菜々美に囁いた言葉が
彼女の心に全く届いていないなんて…奏佑は思ってもいなかった。