私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠
「今日は帰るよ。ゆっくり休んで。」
中塚はそっと抱擁を解いた。
「うん…。」
自分は今、どんな顔をしているだろう。
泣いているのか、怒っているのか、もうグチャグチャだ。
中塚の顔を見ることが出来ない。
「じゃあな、明日会社で会おう。」
「ありがと…色々、ありがとう。」
部屋から中塚が出て行った。
菜々美はダイニングに突っ立たまま、ドアが閉まる音を聞いていた。
一度に色々な事が起こって混乱している。何から考えればいいのかわからない。
わかるのは、奏佑の子を妊娠した事だけ。
あの夜から何の連絡も寄こさない男の子を、宿してしまった。
私の事を思ってくれてるのなら、忙しくても連絡くらいくれるはずだ。
つまり…。遊びだったんだろう。
『お母さん、赤ちゃんが出来たよ…。』
リビングに飾っている両親の遺影に語り掛ける。
ここに引っ越した時、洋風のシンプルな仏壇を買った。
そこに遺影や花を飾って、菜々美は時々話しかけていた。
『赤ちゃん…。』
何年か前に、お隣さんの赤ちゃんを抱かせてもらった事があった。
あったかくてフニャフニャした、小さな命。
自分にこんな事が起こるなんて…命が芽生えるなんて…。
心が落ち着いてくれば、今まで感じた事のない気持ちがこみ上げてきた。
『嬉しい…。』
これまで、負のエネルギーで頑張ってきたけれど、今回は違う。
温かく幸せな気持ち…そこから頑張ろうと言うエネルギーが湧いてくる。
この想いを忘れないようにしようと、菜々美は誓った。